風に乗って聞こえてきた声に、門を開けようとしていた手が止まった。
うた、だ。聞き慣れない調べの、けれどどこか懐かしいような。それを歌っている声は、今訪ねようとしていた彼のそれ。

いつも出迎えられて驚かされている仕返しをしようと、静かに門をくぐり、声の元へ歩みを進める。
思ったとおり、縁側、という場所に腰を下ろしている彼の姿があった。
歌うことによほど意識を集中させているのか、自分が見ていることには気づいていないようで。


――ゆりかごのうたを、かなりやがうたうよ――


俯いた睫毛に、夕日が艶やかに煌めいている。
脚の上に重ねた手の、細い指先でかすかに拍子をとりながら、穏やかに彼はうたう。
普段話をするときのものとは違う、少し高めのやわらかな声が心地よく、ふ、と笑みが零れた。

「あ、…!」
「なんだ、うたっていても良かったのに」

自分の姿を目に留めると、日本は歌うのをやめて恥ずかしそうに微笑んだ。

「いえ、そういうわけには……呼んで頂けましたらお迎えいたしましたのに」
「ん、いや……聴いていたいと思っただけだから、気にするな」

立ち上がろうとした彼を制して、自分もその隣に腰を下ろす。
と、座敷の奥からあの少女が駆けてきて、自分と彼の間の僅かな隙間に可愛らしく腰掛けた。

「よ、久しぶりだな。元気か?」

ぽん、と頭に手を置いて語りかけると、少女は嬉しそうににっこりと笑った。

「……だれか、ここに居ますか?」
「ん?あぁ、そうだな…わかるか?」
「いえ、…見えたりとかはしないんですけど、…不思議ですね」

少女の頭に乗せたままの手の上に、彼の手が重なる。
それに二人で一瞬驚いた後、少女が心底幸せだというように笑った。

「貴方がいらっしゃると、なんとなく感じるんです」

歌も、それで…と、日本は小さく呟いた。

「あのうた、なんていうんだ?」
「ゆりかごのうた、です。子守唄なんですよ。…さっき、歌って、と…聞こえたもので」

言ったのか?と目線で訊ねると、少女がこくりと頷く。
小さく、眠かったの、と囁く声も。

「な、日本。もう一回、歌って」
「え?」
「その、ゆりかご。聴いていたい」
「…わ、私なんかの拙い歌でよろしいのでしたら」
「ばか、お前のとこの歌だろ?…お前より上手く歌える奴が居るわけないだろ」

そう言って笑ってやると、日本は耳まで顔を赤くして「ありがとうございます、」と小さく微笑んだ。

「あ、あと」
「?……!い、イギリスさんっ」
「膝、貸せ…お前も、」

少女を自分の腕に抱えて、日本の脚に頭を乗せる。
真っ赤な顔の彼と楽しそうな少女がそっくりの笑顔で笑うものだから、ああなんだかしあわせな家族みたいだなあ、 なんてことを考えて、自分の顔も一瞬にして熱くなったのが分かった。


――ゆりかごのゆめに、きいろいつきがかかるよ――


彼の優しい声と腕の重みと髪を撫でられることの心地よさに、やっぱりしあわせだなぁ、と思いながら、俺はやわらかな眠りに落ちていった。







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授業だとかもろもろで、童謡、というか、自分が幼い頃聴いて育った歌を思い出してたら、唐突に書きたくなりまして。
なんか色々すみません……(´Д`)
なにに一番謝りたいって背景がハチドリなことですよね…!orz
でもなんとなくほのぼのしたの書きたいなあと思ってたので満足?です。
お付き合い下さいましてありがとうございましたー++
2008.10.01 雪紘




















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