こんなに重いおもいことばだったなんて。



【愛の病】



綺麗に晴れ渡った秋の空を眺めながら、日本はそれにとても相応しくない深い溜め息を吐いた。
あの日からずっとこうなのだ。
彼の言葉が体中をぐるぐると行き処なく巡っていて、自分の意思ではどうにもならなくなってしまっている。


「そんなわけ、ないじゃないですか」


きっと彼にはそんな意図なんてこれっぽっちも無くて、ただ自分の思ったことを、私に伝えただけ。
その証拠に、彼の様子には何も変わったところは無かったではないか。

なのに。


『お前のそんなとこも、…まあ、正直少し変わってると思うが…俺は、好きだけどな』


そうだとわかっていても、止まらない思考に体全体が支配されてしまって、まるで自分が自分ではないものであるような錯覚に陥る。

ぐるぐる、ぐるぐると。


体中に詰まって溢れてしまいそうなほど苦しい想いに、思わず涙がぱたりと落ちた。


「もう、いやです……」


ぐす、と鼻をすすり、ほう、と息を零した、そのとき。


「……!」


ぴんぽん、と。
場違いなほど明るい玄関の鈴の音と、聞き慣れた微かな革靴の音に肩が震えた。


「日本、居るか?」
「っ、は、い」


返事をしてから、ああなんで声を出してしまったのかと後悔する。
戸の鍵は掛けているし、自分が居る場所だって外からは見えない奥の座敷だ。黙っていれば、絶対に居留守を使ったって気付かれはしなかっただろうに。
こんな気持ちのままでは彼を真っ直ぐに見ることなんて出来そうも無かったけれど、長い距離と時間をかけてわざわざ訪ねてくれた客人を玄関先に放置するわけにもいかず、日本は重い腰を上げて、ゆっくりと玄関へ足を進めた。

戸を開けると、思ったとおり、なんだか申し訳なさそうな顔をしたイギリスが立っていた。


「わ、悪いな、いきなり訪ねて来たりして」


いつもの調子で自分に挨拶をする彼をやはり見ていることが出来ず、日本は作り笑いで微笑んだまま、ふっと目を伏せる。


「いえ、構いませんよ。長旅でお疲れでしょう、どうぞ、お上がりください」
「ああ、うん、……」
「どうか、なさいましたか?」


急に黙りこんだイギリスに、日本は目を伏せたままで小さく問いかけた。
すると一瞬の空白を置いて、いきなり自分の目線が彼のそれと噛み合って、びくんと肩が跳ねる。どうやら、彼が自分の顎を上げさせたらしい。
左肩に置かれた手と顎に添えられた指先が触れている部分に、異常なほど熱が集まっていくのが自分でもわかった。


「日本」
「な、なんで、しょうか」
「なんで目逸らすんだよ」


こっち見ろよ、と、せっかく逸らした目線を追いかけられて強引に合わせられる。
どんどん体が熱くなっていくのに耐えられなくなり、日本は遂にぎゅっと目を瞑った。


「……なあ」
「っ、……」
「……そんな赤い顔で目瞑ってたら、食われても文句言えねえぞ」
「え、…!?」


ふいに自分の唇に何か柔らかく温かいものが触れて、思わず日本は目を開く。
視界に広がる金の光に溺れてしまうのではないかと怖くなって彼の服を掴むと、ぎゅうっと苦しいくらいに抱き締められて、何故か涙がもう一度頬を伝って零れていくのがわかった。


「…やっとこっち見たな?」
「な、ん……あ、挨拶にしては、やり過ぎでは、ないですか」


ようやく離された唇を押さえて、真っ赤な顔で再び俯いた日本が呟く。
その体が小刻みに震えているのを見て、イギリスは再び日本を強く抱き締めた。


「……挨拶で唇にキスするわけないだろ」
「な、あ…貴方、年上をからかうものじゃ、」
「…好きな奴にあからさまに避けられて我慢出来るほど大人じゃねえんだよ!」


気付け、ばか!と、また唇を奪われる。
そうして数秒優しく触れた後、イギリスは腹を決めたかのように静かに口を開いた。


「…すき、だよ。日本、お前のことが。からかってなんか、ない。…この前けっこう頑張ったんだけどな、俺」
「あ、え……?」
「なのに顔色ひとつ変えないでありがとうございます、で流されてさ、泣くかと思ったんだぜ?」


少しおどけた様子で、しかし真剣な眼差しで、イギリスは言う。
日本はと言うと、彼の言う「この前」の出来事と先程の出来事を反芻して、


かくん、と膝から地に落ちていった。


「え!?お、おい日本、どうした」
「や、…っ、いやですだめですイギリスさん来ないでください!」


茹で蛸のように体全体を真っ赤にして、驚くほどの早さで廊下を後退っていく。
廊下の突き当たりに背中がぶつかると、着物の両袖で顔を隠してぎゅう、と身を縮めた。


「に、日本……?」
「だ、だってそんなのおかしいですよ、私イギリスさんがこの前頑張ってまで伝えてくださったような言葉なんてひとつしか思い当たることがありませんし、 それを聞いてから私の体の中はぐるぐるしてせつなくてくるしくてもうわけわかんなくて、 たぶんこれは私はイギリスさんが好きなのであってでもイギリスさんは絶対そんな意図で言った言葉じゃないんだって思って ずっとぐるぐるぐるぐるしてて、でも今イギリスさんにくちづけされて好きだって言われて それって私とイギリスさんは両想いってことになって、でも」
「…「でも」、何だよ?」


いつの間にか目の前にあったイギリスの嬉しそうな顔に、日本は泣き出しそうな困った顔で「たすけて、」と呟いた。


「な、日本」
「っ、は、はい」
「俺は、お前のことが好きです。抱き締めて口付けして、もっともっと色んなことしたいしそれに、いつも、いつまでも傍で一緒に、笑っていて欲しいと思う」


そう言って幸せそうに笑うイギリスを、日本は瞳に涙を浮かべて見つめていた。


「な、…日本は、どう思ってる?」


お前の口からちゃんと聞かせて、と、目線を合わせられて微笑まれる。
ああもう逃げ場なんてないんだ、と、他人事のように、しかしどこか嬉しく思った。


「…わたしも、……あなたが、 」








言い終わらないうちにきつくきつく抱き締められて、日本は花が咲いたようにきれいに笑った。









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あなたが、好きです!

携帯サイトに上げてたやつを引っぱってきました。
なんか書いてる途中に意味わかんなくなりまして支離滅裂ですすーみませんー!orz
でもやっぱり何回書いても告白話は楽しいです。んっふっふ←
なんとなくイメージはa/ikoの「愛の病」です。タイトル拝借。
それにしても日さまの台詞の長いことったら!←
お付き合い下さいましてありがとうございました!

2008.09.21 雪紘




















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